みなさんは、「博物館」と聞いてどんな印象を思い浮かべますか? 貴重な資料がガラスケースに展示されている風景? それとも、調査研究の成果がちりばめられた、知識の宝庫? 東京都江戸東京博物館(以下、「江戸博」)はそうした役割も担いつつ、楽しみながら「本物を体感できる場所」です。今回は、モデル、エッセイスト、司会など多彩に活躍し、美術にも造詣が深いはなさんをゲストにお迎えして江戸博の常設展示のうち「江戸ゾーン」をめぐり、その魅力をご紹介します。取材・構成:内田伸一
撮影:田中由起子

はな

1971年、横浜市生まれ。上智大学比較文化学科美術史専攻。『non-no』『装苑』などの雑誌でモデルとして活躍した後、NHK教育テレビ「トップランナー」や「新日曜美術館」の司会、TBS「世界ウルルン滞在記」の旅人などを務める。J-WAVE「TIME FOR BRUNCH」では毎週東京都内の一つの街をテーマに取材した。趣味である仏像やお菓子に関する本も多数執筆し、『ちいさいぶつぞう おおきいぶつぞう』『タイム・フォー・ブランチ はなの東京散歩』『おくるおかし』などがある。2015年1月には、自身初となるライフスタイルをまとめた本を、刊行予定。
http://sixthsense.jp/hana/

「時の架け橋」を渡り、江戸へタイムスリップ

「日本橋」
(模型 復元年代:19世紀前半 縮尺:1/1)

江戸博のシンボルとも言えるのが、6階の常設展示室入口にある日本橋。実物大の復元模型・日本橋を実際に歩いて渡るところから展示が始まります。それでは、はなさんと江戸ワールドへの第一歩を踏み出しましょう。

はな:実は私、江戸博には何度か訪れていて、なかでもこの橋が一番のお気に入りです。高い場所が好きなのもありますが(笑)、なにより日本橋は江戸時代からこの東京の、ひいては日本経済の中心ともいえる存在だった場所ですよね。その橋を歩いて渡り、階下に広がる展示を眺めながら進むと、まるで江戸時代へタイムスリップするような感覚になって、自然と気持ちも盛り上がります!

日本橋が初めて架けられたのは、1603年(慶長8)頃といわれています。東海道をはじめとする諸街道の基点と定められ、また橋下の日本橋川も水上物流の要として、それぞれ賑わいました。

はな:人々がここを賑やかに往来する姿が想像できますね。以前ラジオ番組のお仕事(「TIME FOR BRUNCH」)で東京をあちこちめぐったときは、さまざまな街の顔に魅力を感じたものでした。今日は、時代を越えての街めぐりといった感じですね。江戸時代というと、私は漫画版の『鬼平犯科帳』などを読んで、親しみを感じています。そうした世界を追体験できるのが、この博物館の魅力だと思います。

そう話しながら橋を渡る彼女の姿は、たしかに雑誌やラジオ、TVなどでよく見せてくれる街歩きのワンシーンのよう。江戸時代への時間旅行のはじまりです。

約800体の人形で賑わう、江戸初期の街並

日本橋を渡ると見えてくるのが、なにやら賑やかな街の様子。寛永期の日本橋北詰付近にあった町人地を、1/30のスケールで復元したものです。今まさに渡ってきた日本橋から始まる大通り(現在の中央通り)が一望できます。さらに約800体もの人形により、さまざまな暮らしのシーンが活き活きと再現されています。

はな:建物も人物も、一つ一つ異なる模型のどれもが本当によくできていますね。天秤棒をかついだ忙しそうな物売りさんから、大道芸を楽しそうに見物する町人たち、強面の武士や洗濯にいそしむ女性まで……。じっと見ていると、私もこの世界に入り込んでしまいそうです。置いてある双眼鏡で覗くと、人それぞれに個性的な表情があり、自分も住人になったような気分が味わえるのも楽しいです。

はなさんの「この世界の住人になったよう」という感覚を、よりダイレクトに感じられる体験型資料もあります。そのひとつが、この模型のすぐ隣にあり、実際に乗ってみることができる大名の駕籠。はなさんも、さっそく挑戦です。

はな:こうして実際に体験できる展示が多いのもすごく楽しいですよね。私も、訪れるたびについつい全部やってしまいます。このまま「えっさほいさ」と駕籠に揺られて会場をめぐりたい気分になりませんか?(笑)

  • 「寛永の町人地」(模型 復元年代:17世紀中期 縮尺:1/30)

  • 大道芸を見物する町人たちの様子

威風堂々の大名屋敷には、能舞台も!

駕籠に揺られる大名気分を味わった後は、大名屋敷を訪ねてみましょう。江戸城大手門前にあった、越前福井藩主・松平伊予守忠昌の豪華な屋敷が再現されています。さきほどの町人地と同じ時期、同じ縮尺なので、比べてみるといかに広大な屋敷なのかが実感できます。

はな:まさに「大名屋敷」という感じの、威風堂々とした建物。正面の御成門(将軍御成のときに使う特別な門)や、敷地内にある美しい能舞台も目を引きます。私は仏像さまが好きで日本各地のお寺はよく訪ねてまわっているのですが、大名屋敷跡にはこれまであまり訪れる機会がなくて。でもこうして再現されたものを見ると、やはり写真などで見るのとは違う、その時代独特の佇まいや迫力が感じられます。

さらにその近くでは、江戸城本丸御殿の一部も模型として見ることができます。

はな:町人たちの活気溢れる暮らしがあった一方で、江戸城という厳かな場所で働く武家衆や、ここの廊下をしずしずと歩く女性たちの姿もあったのかな……といろんな想像も膨らみますね。着物を美しく着こなす江戸の女性に憧れるので、もしこの博物館の縮尺模型の一部になれるなら、そういうシーンに「出演」してみたいです(笑)。

なお、2015年3月28日の常設展示室のリニューアル後は、本丸御殿や二丸御殿を中心に復元した巨大な江戸城模型が登場予定です。はなさん、ぜひ新しい江戸城でもイマジネーションを広げてくださいね。

  • 「寛永の大名屋敷」(模型 復元年代:17世紀中期 縮尺:1/30)

  • 「江戸城本丸大広間・松の廊下・白書院」(模型 復元年代:19世紀中期 縮尺:1/30)