助け合いの精神が息づく、長屋の暮らし

「棟割長屋(部分)」
(模型 復元年代:江戸後期 縮尺:1/1)

続いて5階へ降りると、江戸の人々の暮らしがうかがえます。ここでは、江戸の庶民が暮らした長屋の一部を実物大で再現しています。長屋とは、ひとつの棟を数戸に区切った住宅。当時、過密都市だった江戸で、庶民は小さな空間に必要最低限の家財で生活していました。江戸全体の約2割弱にあたる狭い町人地で、多くの庶民がこうした借家住まいをしていたようです。

はな:この模型は、自宅でのお産の場面ですね。お産婆さんがいて、見守る家族がいて……めでたく赤ちゃんが生まれています! 6畳ほどの小さなお部屋で一家がつつましく暮らしていたようですが、トイレやお風呂は共用だろうし、お隣との仕切り壁も薄そうで、今のプライバシー感覚とは全く違う生活だったのかな。でも見方を変えれば、隣人に対してもっとオープンで、助け合いの生活を送っていたとも言えるでしょうね。また、よく見ると小さな煮炊き場や下水溝もあって、意外と便利な設備が揃っていたのかなとも感じます。

はなさんの想像通り、長屋の人々は湯屋(銭湯)に通い、井戸、便所、ごみためなどは共用設備を使っていました。単身者から子連れ家族まで、様々な人が助け合う生活だったようです。 なお、この長屋の模型も常設展示室リニューアル後は、一棟全体を再現した模型にリニューアルする予定です。

ところで、長屋をはじめ、江戸の建物の資材はほぼ木材と紙だったため、江戸の町は火事に弱い一面もあり、それだけに消防の制度は重要でした。ここで纏(まとい)の体験型資料に吸い寄せられたはなさん。纏とは、江戸時代の消防組織・町火消が用いた印の一種です。これを威勢よく振り回す火消しの姿は、時代劇でもよく登場しますね。はなさんも果敢にチャレンジしますが、その重さはなんと15kg!

はな:よいしょっ! お……重いです(苦笑)。これでバランスをとりながら威勢良く動き回るのは、男性でも大変でしょうね。江戸の火消しの皆さんにとっては、この大役が憧れの対象だったとか。命がけで街を守る火消しさんは、江戸の町人にとって英雄で、エンターテイナーたちと肩を並べるほど、華のあるお仕事だったんですね。

  • リニューアル後の長屋一棟分の再現イメージ

  • 纏を持ち上げるはなさん

「刷り物」は江戸のマルチメディア?

「絵草紙屋」
(模型 復元年代:19世紀初期 縮尺:1/1)

日々の仕事や防災に勤しむのも大切ですが、ときにはエンターテインメントで息抜きもしたいのは、今も昔も同じ。続くコーナーには、力士や役者を描いた浮世絵や絵草紙が売られていた「絵草紙屋」があります。これら江戸の出版物は庶民の娯楽として人気を集めていました。

はな:描かれたのはお相撲さん、役者さん、美人画……今で言うブロマイドみたいなものかもしれませんね。実は私もお相撲が大好きで、見に行くときはつい「相撲カード」を大人買いしてしまいます(笑)。好きなものを手元においておきたい想いは、時を超えて通じるものなのかな。一方で、TVもインターネットもない時代、こうした出版物が情報源のひとつになっていたのかもと想像します。それは現在の私たちにとってもそうで、たとえばお相撲さんの絵の中に、髪型が月代(さかやき=頭髪を額から頭頂にかけて半月形に剃り落とす)のものがあり、今では珍しいその姿に驚きました。これらは、当時の様子を後世に伝える大切な資料でもあるのですね。

  • 「絵草紙屋」に並ぶ相撲取りや役者の浮世絵

江戸のファッション拠点・呉服店「三井越後屋」

はな:もともとは上方から来たものだから「江戸本店」と言うのかな。お店に出入りする粋なファッションの女性たちや、お茶をふるまう店員さんなど、精密なお人形が当時の買い物の風景を想像させて楽しいです。彼らが取り入れた新商法「店先(たなさき)売り」(今では一般的な、定価制の店頭販売)の様子もよくわかりますね。お客さんと店員たちのやりとりや、奥で接客の練習をする小さな見習いさんなど、どれも今にも動き出しそう。動くと言えば、15分ごとに暖簾が上下する「動く展示」も、つい買物客の気分で待ち構えてしまいます(笑)。江戸時代の人々も、ショッピングのワクワク感を楽しんでいたのかな。

江戸の人気デパート、といった風情のこの店は、後世……そう、店名から気付いた方もいるかもしれませんが、この呉服屋は、後にあの三越の前身となるのでした。

  • 「三井越後屋江戸本店」(模型 復元年代:19世紀前期 縮尺:1/10)